痛みを極限まで抑える「無痛的局所麻酔」
1. 「麻酔の注射が怖い…」過去の痛いトラウマ、我慢していませんか?
「昔、歯医者さんで打たれた麻酔が飛び上がるほど痛かった」
「注射の針を見るだけで動悸がして、冷や汗が出てしまう」
「麻酔が痛いのが怖くて、虫歯があるとわかっているのに何年も歯医者に行けていない」
このような深いお悩みを抱え、当院へご相談にいらっしゃる方は決して少なくありません。
歯の痛みは限界なのに、過去のトラウマや恐怖心が足かせとなり、歯科医院の入り口をくぐることができない。そのお気持ち、とてもよくわかります。
多くの歯科医院のHPやブログでは、「表面麻酔を塗ります」「極細の針を使います」「電動麻酔器があります」という「機械やツールの紹介」で終わっています。
それだけでもかなり痛みは軽減するかもしれませんが、それだけでは無痛的局所麻酔は完成しません。
2. 歯医者が怖いのは当然のこと。緊張が「痛み」を増幅させる医学的理由
25年以上にわたり臨床の現場で多くの患者様と向き合ってきましたが、私が最初にお伝えしたいのは
「歯医者が怖いのは、世界的にみても人間としてごく自然な反応である」ということです。
お口の中という非常に敏感な部分に、先の尖った器具を入れられるのですから、恐怖を感じない方が不自然です。
歯科恐怖症の有病率は欧州で5.4~24.3%、欧米では40~50%、日本でも約10%といわれています。KvaleG,BerggrenU,MilgromP.Dentalfearinadults:a meta-analysis of behavioral interventions. Community Dent Oral Epidemiol. 2004
実は、この「恐怖心」や「緊張」は、痛みの感じ方に直接的な影響を与えます。
生理学的な研究データにおいて、人は極度の緊張や不安状態にあると、脳の「痛みの閾値(痛みを感じるボーダーライン)」が下がることがわかっています。つまり、リラックスしている時と同じ刺激であっても、緊張している時は脳が「より強い痛み」として敏感に察知してしまうのです。
だからこそ、痛みを抑えるためには、単に麻酔の打ち方を工夫するだけでなく、まずは皆様の「恐怖心」に寄り添い、安心できる環境を作ることが不可欠なのです。具体的には短期認知行動療法や非薬理学的アプローチを併用して行います。
3. エビデンスに基づく「無痛的局所麻酔」科学的アプローチ
では、実際にどのようにして麻酔の痛みを極限まで抑えるのでしょうか。魔法のような方法があるわけではありません。科学的根拠(エビデンス)に基づき、痛みの原因を一つひとつ確実に取り除いていくステップを再考してみましょう。
ステップ1:「表面麻酔」で刺す痛みをなくす?
定説では、まず歯茎にゼリー状の表面麻酔を十分に塗布し、粘膜の感覚を麻痺させることで、針が触れる「チクッ」とした最初の痛みを抑えるとされています。確かに上顎前歯部は優位差があるとされる文献があります。小児歯科のものが多くどこまで信憑性があるか考えものです。プラセボと変わらないという文献もあります。そもそも2分〜3分以上をかける除痛効果がどれほどのものなのか。クライオセラピーといって氷の事前冷却の方が刺入痛を軽減させるとさえ言われています。Efficacy of cryotherapy on pain reduction during local anesthesia in dentistry: 2023
ステップ2:痛点を避ける「超極細針」の使用?
定説では注射針は細ければ細いほど痛みを感じにくくなると考えられています。
実際針の販売数も極細針が増えているようです。が、これは根拠のない仮定に基づいているに過ぎません。
既に1972年にハンブルクが、患者は23、25、27、30ゲージの針を区別できないことを実証しているのです。Hamburg HL. Preliminary study of patient reaction to needle gauge. N Y State Dent J. 1972
当院でも、27ゲージから35ゲージで実験して打ち比べて見ましたが優位差はありませんでした。35Gのような超極細針を単独の手動シリンジで使用した場合は刺入痛を物理的に軽減する反面、注入痛(圧痛)を増強させるリスクがあがります。
ステップ3:麻酔液を体温と同じ「37℃」に温める?
定説では冷たい麻酔液が体内に入ると、温度差による刺激が痛みとして脳に伝わりこれを防ぐため、専用の機器を用いて麻酔液をあらかじめ人間の体温と同等の37℃に温めた方が痛みが弱いとされています。
局所麻酔薬の加温は、1967年にBoggiaによって初めて痛みの軽減策として報告されましたが、その作用機序はまだ不明です。この加温の参考文献も小児歯科や顎顔面外科や外科が多く、口腔では室温で十分であり温める必要は全くないともいわれています。
Handbook of Local Anesthesia, 7th Edition Stanley F. Malamed / 2019
当院で冷蔵庫保管から出してすぐのカートリッジ・室温のカートリッジ・体温まで温めたカートリッジで実験をしましたがこれも優位差はありませんでした。
ステップ4:一定の速度でゆっくりと注入する?
麻酔液が急激に組織に入る際の「圧迫」が、最も強い痛みの原因となります。熟練の手技、あるいはコンピューター制御の機器を用い、組織に負担をかけないよう極めてゆっくりと一定の速度で液を注入します。
具体的な圧とスピードは300mmHg以下で1ml/分とされています。Investigating factors influencing the amount of injection pain in the oral cavity: a systematic reviewエビデンス的にはここが最も重要で、時間をかける事のできる精密歯科治療の優位性が確認できました。
ステップ5:薬剤の酸性pHに対する正常な反応
麻酔液はPHが酸性なため注射時に1〜2秒ヒリヒリ・チクチクと灼熱感を感じることがあるのですがこれは正常な反応です。保管方法やカートリッジを過度に温めることでPHが変化し痛みを感じやすくなることが考えられます。冷蔵庫で保管することにより製品本来の灼熱感で抑えることができます。
4. 当院が実践する、心と体に寄り添う痛みのコントロール
これらのステップに加え、他のテクニックを使っているのは勿論ですが当院が最も大切にしているのは「コミュニケーション」です。
治療前に今日の処置内容を丁寧にご説明し、疑問や不安を解消していただきます。何をされるかわからない状態が一番の恐怖だからです。また、麻酔を打つ際も「少し押しますよ」「順調ですからね」と細やかにお声がけをし、呼吸のペースを合わせながら、精神的な緊張を解きほぐしていきます。
5. 痛みをなくす最大の鍵は「待つ時間」。保険診療との決定的な違い
ここまでお読みいただき、「それなら他の歯医者でも同じ道具を使えば痛くないのでは?」と思われたかもしれません。
しかし、無痛的局所麻酔を成功させるための最大の鍵は、道具ではなく「時間」にあります。
例えば、最初に塗る表面麻酔。これが歯茎の深くまでしっかりと浸透し、十分な効果を発揮するまでには、粘膜を確実に乾燥させ、2〜3分間じっくりと「待つ」必要があります。麻酔液を注入する際も、圧迫痛を出さないためには数分かけてゆっくりと進めなければなりません。
日本の素晴らしい保険制度は、多くの人が安価に医療を受けられる反面、構造上「1人の患者様にかけられる時間が限られている」という現実があります。限られた短い診療時間の中では、麻酔が効ききるまで十分な時間を待つことがシステム的に極めて難しいのです。
当院が「自由診療」をお勧めする理由はここにあります。
私たちが目指す、精密で再発の少ないMI(最小侵襲)治療を実現するには、患者様が痛みや恐怖を感じないリラックスした状態が絶対に必要です。そのために、保険の枠組みを外し、お一人おひとりに十分な時間を確保できる環境を準備いたしました。
6. 虫歯を放置して抜歯になる前に。まずは「お話」から始めましょう
「怖いから」と痛みを我慢し続けると、虫歯や歯周病は確実に進行してしまいます。放置すればするほど治療は複雑になり、最終的には大切な歯を失う(抜歯)という最も避けたい結果に繋がってしまいます。
そうなる前に、まずは一度当院にご相談にいらっしゃいませんか?
初診でいきなり治療をしたり、無理やり麻酔を打ったりすることは決してありません。まずはあなたのお悩みや、過去にどんなことが怖かったのか、じっくりとお話を聞かせてください。
科学的根拠に基づいた痛みのコントロールと、時間をかけた丁寧な診療で、あなたの「歯医者は怖い」というイメージを変えるお手伝いができれば幸いです。一生涯、ご自身の歯で美味しく食事ができるよう、私たちが全力でサポートいたします。

