「むし歯を残した」との説明で不安な方へ。神経を守り抜く「シールドレストレーション」とは?
1. 「むし歯(軟化象牙質)をあえて残しました」と言われて不安な方へ
「神経の近くまでむし歯が進行していたので、神経を残すために、あえてむし歯(軟化象牙質)を少しだけ残して蓋をしました」
歯科医院で治療を受けた後、先生からこのように説明されて、言葉にできない不安を抱えていませんか?
「むし歯=すべて削り取るべき悪いもの」と認識している患者様にとって、
「むし歯を残した」と言われることは恐怖でしかありません。
「本当にむし歯を残したまま蓋をして、中で腐ったりしないのだろうか?」
「あとになって激痛が走り、結局は神経を抜いたり、抜歯になったりするのではないか?」
インターネットで検索し、様々な情報に触れるたびに、その疑念はますます迷路に入っていくかもしれません。
2. 「残された虫歯の中で菌が繁殖するのでは?」という当然な疑問
ご自身の大切な歯のことですから、そのように不安に思われるのは当然のことです。
「少しでもむし歯菌が残っていれば、また中で広がってしまうはずだ」という感覚は、患者様として極めて正常で鋭い疑問だと言えます。
25年以上にわたり歯科医療の現場に立ち続けてきた私としても、過去には
「むし歯は徹底的に取りましょう」と言ったり
「むし歯を取り残すから再治療になるんだ」と考えている時期もありました。
ですから「神経を残す優しい治療です」という甘い言葉だけで、
患者様の深い不安を拭い去ることはできないと痛感しています。
しかし、ここで皆様の「むし歯治療の常識」を覆す、極めて重要な現代の医学的真実をお伝えします。
それは、現代のむし歯治療においては「取るべき部位」と「残すべき部位」を明確に区別し、正しく密閉することこそが、歯の神経を守り抜くことになるということです。(もちろん診査診断した上で)
3. むし歯には「取るべき部位」と「残すべき部位」が存在する
皆様が「むし歯」と呼んで一括りにしているものには、実は4層が存在します。
国際コンセンサスにおける触覚の4分類
2016年の国際コンセンサス(ICCC)では、象牙質の硬さを 4段階(Soft, Leathery, Firm, Hard) に分類しています。
深在性う蝕における選択的う蝕除去では、歯髄側の壁は「Soft(泥状)」な部分のみを除去し、「Leathery(革のような硬さ)」な層をあえて残すことが推奨されています。
10年経った今でもこのコンセンサスは変わっていません。
深い虫歯の場合、Hard dentinまで無理にすべて削り取ろうとすると、すぐ下にある神経(歯髄)が露出してしまい、結果的に神経を抜くこと(抜髄)になります。神経を抜かれた歯は将来的な抜歯のリスクが上がります。だからこそ、外層の感染歯質だけを確実に徹底的に取り除き、歯髄付近の影響歯質はあえて「残すべき部位」として温存するのです。
4. 残した部位は腐らない?「シールドレストレーション」の真実
ここで最大の疑問が残るはずです。「柔らかくなったむし歯を残して、本当に中で腐らないのか?」と。
結論から申し上げます。「完全な密閉(シールド)」を行えば、歯は中で腐ることはありません。
完全な辺縁封鎖によって口腔内からの栄養供給が遮断されれば、残存細菌が「兵糧攻め(飢餓状態)」に陥ることで、活動(代謝および酸の産生)を停止するからです。
「取るべき部位」を取り除き、「残すべき部位」を残す。実はこれだけでは治療は半分しか終わっていません。最も重要なのは、残した影響歯質の周りを、強力な接着技術を用いて「細菌の侵入経路を完全に封鎖すること」です。
これを、接着歯学において「シールドレストレーション」と呼びます。(※1990年代より田上順次教授らによって提唱され、現在ではMI治療の重要なエビデンスとなっています)
う蝕病変の深部に存在する細菌(ミュータンスレンサ球菌など)は、生存・増殖・酸産生のために、口腔内からの発酵性炭水化物(糖質)を必須とします。コンポジットレジン等の接着技術を用いてエナメル象牙境(DEJ)を含む外周辺縁部を物理的かつ完全に封鎖すると、この栄養源(ライフライン)が断たれます。
栄養を絶たれた細菌は、エネルギーを産生できなくなり、代謝を著しく低下させて休眠状態(または死滅)に至ります。その結果、新たな「酸」が作られなくなり、象牙質の脱灰がストップします。
さらに、酸による攻撃が止むことで、歯髄側からは象牙質液を介してカルシウムやリン酸が供給されるようになります。これにより、残された軟化象牙質の再石灰化(硬化)と、歯髄の自己防衛である第三象牙質の形成が促されるという、微小環境(Micro-environment)の劇的な変化が起こります。
これが、軟化象牙質を残しても問題が起きない生物学的なメカニズムです。
5. なぜ多くの治療でこの技術が失敗するのか?
しかし、現実には「虫歯を残して蓋をしたら、あとで痛くなって再発した」というトラブルが後を絶ちません。
なぜでしょうか?
先ほどお伝えしたように世界的にむし歯は硬さで4層に分けていますが
日本の歯科教育では細菌の量によって6層で教わります。
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多菌層:細菌が多数繁殖している層
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寡菌層(かきんそう):細菌がまばらに存在する層
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先駆菌層:細菌侵入の最前線
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混濁層(脱灰層):酸による脱灰のみが起きている無菌層
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透明層(硬化層):歯髄を守るために象牙細管が石灰化で塞がれた無菌層
- 生活反応層 :透明層と正常な象牙質の間にある無菌層
これらは視診や触診で確認することが不可能なため、確認のためにう蝕検知液という染色液を使います。
ポリプロピレングリコールのう蝕検知液では混濁層は染まらないとされています。
しかし染色されてしまうと徹底的に削りたくなるのが人情です。
そしてスプーンのような器具で優しく切削していく必要があります。
時間がないからと時短のためのドリルでの切削は発熱や削り過ぎのリスクも伴うのです。
そして私が思う失敗する可能性を高めているだろうことをお伝えします。
それは接着の失敗です。
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お口の中は湿度100%で、常に唾液が存在します。保険診療の短い治療時間の中で、唾液を完全に排除せずに詰め物をすれば、接着面に目に見えない隙間(辺縁漏洩)が生じ、そこから再び細菌が侵入してシールドは一瞬で崩壊します。
MTAなど材料の問題ではないのです。
このミクロの境界線を正確に見極め、完璧なシールドを構築するためには、マイクロスコープ(顕微鏡)による数十倍の拡大明視野と、唾液を完全にシャットアウトするラバーダム防湿が絶対に不可欠です。
私が約10年前に保険診療の枠組みから外れ、自由診療の道を選択したのはまさにこのためです。1本の歯に時間をかけ、無菌的な環境下で妥協のない乾燥下での接着操作(シールド)を行わなければ、患者様の歯の神経を本当の意味で守り抜くことはできないと確信しているからです。
6. 歯の神経は一生の財産。抜髄宣告をされる前に精密診断を
「むし歯を残された」という違和感や恐怖は、決して気のせいではありません。
それが「精密な診断とシールドレストレーションに基づいた意図的な温存」なのか、それとも「肉眼と時間の限界による単なる取り残し」なのか。
その違いが、数年後のあなたの歯の運命を決定づけます。
歯の神経は、ご自身の歯を生涯使い続けるための、代替不可能な「一生の財産」です。
もし今、治療中の歯に不安を抱えていたり、他院で「これ以上削ると神経を抜くことになります」と宣告されて迷っているのであれば、安易に処置を進める前に、まずは現状を「正しく知る」ためのセカンドオピニオンをご検討ください。
あなたの大切な神経が本当に残せる状態なのかどうか。マイクロスコープとCTを用いた妥協のない精密な診査診断のもと、客観的な真実をお伝えし、全力でサポートいたします。

